甘粛の長城をみて (2012.10)

長城というと、多くの人は北京にある八達嶺の長城を思い浮かべるであろう。 ただ長城は築かれた時代や地域によって外観や作り方がことなる。 今回の旅行では、八達嶺のような焼きレンガ造りの堅固で立派な長城ではなく、 多くは土とアシや木の枝などをつき固めた素朴なものであった。

この地方は雨量も少なく乾燥しているので、当時はそれで十分だったのであろう。 しかし焼きレンガに比べると当然に風化しやすく、また人間に破壊されやすい。 実際に現在では多くの箇所が切断され、破壊され、ボロボロである。 ボロボロではあるが、しかし何百年もの時に耐えつづけ、今でもその姿を誇示している。そのような長城をみると、なにか愛着を感じ、不完全のなかにも美を感じ、 さらに滅びゆくものの寂しさ、虚しさ、痛みまでも感じる。 いやでも感傷的になるのだ。

人間も長城と同じで、完全な存在ではなく、いつかは死んで骨も朽ちる。 そして僕自身の人生を振り返ってみても、順調ではなくデコボコである。 デコボコでもボロボロでもいい。 いつかくたばる日まで、僕はこのボロボロの長城とともに、 この地上をはるか遠くまで歩みつづけたいと思うのである。 (2012年8月)