松江大学城滞在記【旧市街編1】2018.05

松江城区の地図で大ざっぱに言うと、滬昆高速以北は新開発地区で、高速以南には旧市街地が存在する。旧市街は約26年前に一度訪れたが、当時の記憶はかなり薄い。写真も撮影はしたが、その後カメラ(借用品)を紛失し、松江の画像は一切残っていない。今考えてみても大変残念なことである。

宿舎から旧市街へは市バスが便利である。最寄りのバス停「嘉松公路文翔路」、或は「文翔路第一人民医院」から9番バスに乗り、その後は目的地に応じて下車する。例えば酔白池へはバス停「酔白池」がある。今回は限られた範囲内での散策であったが、有名な酔白池と方塔園以外にも、東岳廟や西林禅寺など 様々な歴史文化遺産に出会うことができた。

★酔白池  昼頃に到着し、お腹も空いていたので、近くの売店で黄酒と煎餅(薄焼き巻)を買ってから入園した。蘇州在住時代に「園林飲み」が習慣となった。昼間の庭園内で景色を見ながらのんびり酒を飲むのは、何とも気分がいいものである。先ずは園林飲みに相応しい場所に座り、黄酒を飲みながら煎餅を食べる。

食後は園内の散策だ。想像以上に敷地は広く、見どころも多い。特に印象深かったのは方孝孺の書の石碑で、「正心誠意」の四文字が篆書で書かれている。方孝孺は明代初期、燕王朱棣(後の永楽帝)の簒奪に反対し、一族郎党ともに処刑(滅十族)された人物である。石碑の文字を見ていても彼の気骨が感じられる。 方孝孺の碑と言えば、蘇州旧城内にある玄妙観の「無字碑」を思い出す。 その名の通り文字の無い碑で、初めて見た時は 野ざらしのため風化が激しかったのかと思ったが、 実は永楽帝の命令で文字を削られたのだという。

その他、孫文が演説に訪れた「雪海堂」という建物もある。酔白池は一見地味な庭園だが、董其昌や孫文など、歴史的著名人とも関わりがある紀念すべき場所なのである。

★方塔園  方塔は元々北宋の興聖教寺の塔で、その後改築を繰り返して現在に至るという。園内にはその他、照壁(明)、石像生(明)、望仙橋(南宋)、天妃宮(清)等、歴史的建造物が散在し、かなり見応えがある。

立派な塔であり、当然登りたいと思ったが、残念ながら閉鎖されている。26年前に訪れた時に、登れたかどうかは全く覚えていない。現在の入場料は12元であるが、当時の入場券も保存してあり、それを見ると料金はなんと1角(0.1元)だったことが分かる。まぁ、私もそれだけ年を取ったということですね。

松江大学城滞在記【キャンパス編】2018.05

上海出張も今回で5度目となった。そして去年までは職場は虹口であったが、今回は新開発地区の「松江大学城」である。最寄りの地下鉄駅は9号線「松江大学城駅」。夜の駅前では広場ダンスが盛大に開催されていた。それを眺める薄桃色の服を着た少女の姿が印象的だ。身内のお婆さんが踊っているのか、或は踊っている人が羨ましいのか、一切身動きもせずに真剣に見ている。広場ダンス文化も世代を越えて、50年後には彼女も広場デビューしているかもしれない。

さて、Wikipediaによると、松江大学城は2000年に建設が開始され、2005年に完成。敷地面積は約8000ムー(約5.3k㎡)で、日本の埼玉県蕨市(5.1 k㎡)とほぼ等しい。そこには今回私の出張先である上海外国語大学(上外)を含め、上海対外経貿大学、上海立信会計金融学院、東華大学、上海工程技術大学、華東政法大学、上海視覚芸術学院の計7大学のキャンパスがある。上外の位置は拡大地図の真ん中に示した。

★キャンパス風景  虹口と比べ、歩いている人は疎らだ。緑地部分がかなり多く、綺麗に整備された水路もあり、長期滞在には落ち着いた良い環境であると感じた。ストレスの多い現代社会では、やはり水の流れや樹木が多いと心も休まる。虹口の場合、同様の環境を求めようとすると、それほど遠くはないが、キャンパスの南にある魯迅公園まで行く必要がある。前回は何度も訪れた癒しの公園であるが、今年は一度も行かず、少し寂しい気がする。(参照:当ブログ「新生活:魯迅公園での休日」)

★宿舎  マンションタイプの立派な建物が今回の宿舎だ。私の部屋は11階で、西向きのベランダからの眺めもまあまあ良い。正面には西洋風のお洒落な校舎、南西には屋上に円盤型UFOが載ったような上海市人民第一医院が見える。夕陽の景色もきれいなものである。しかし所詮郊外の殺風景な土地である。私の概念では「松江は上海ではない」のである。虹口キャンパス時代の部屋は、近くには虹口サッカー場、遠くには東方明珠等の浦東ビル群も見え、都会感があふれていた。普段滋賀県高島市の田舎に住んでいる私にとって、別の田舎での長期滞在は本来望んでいないことだ。まぁしかし、これも何かの縁であろう。ポジティブ思考で松江生活を楽しみましょう。

★学食  今回は毎日朝昼晩、学食にお世話になった。虹口では近くに学食以外の食堂も多く存在したが、今回は近場には一か所の学食しかなかった。献立について、朝食は毎回定番の豆乳、粥、野菜まん、油条(揚げパン)、葱油餅(ネギ入り薄焼き)等で、メニューに変化はない。夕食はメニューも適度に替り、毎日食べても飽きることはなかった。辛目の料理が多かったが、味は良かった。

★学内スーパー  心身の癒しは何といっても一本の冷えた瓶ビールである。仕事が終わると学食の隣にある売店「世紀華聯」へ行き、3.5元(日本円で約40円)の「雪花啤酒」(750ml)を買う。そして部屋に戻ると外の景色を見ながらゴクゴク喉に流し込む。アルコール度数は2.5と低目で味も薄目だが、水のようにガブ飲みするにはちょうどいい。ビールの後には、黄酒と白酒が必須である。ただ外の離れたスーパーへ買いに行くのも面倒であり、今回酒はほとんど品揃えが悪い大学スーパーで買った。結果、以前は買ったことのないブランドの酒を飲むことになる。黄酒は「谷和」、「石庫門」、白酒は「江小白」、「老村長」等だ。まぁ普段飲まないブランドもたまにはいいだろう。

夕暮れどき、ほろ酔い気分で散歩することもある。水路の向こうには三角帽子の校舎やUFO屋根の第一医院が見える。閑散としたキャンパス内は、時の流れや人の動きもゆったりしている。時おり涼しい風が吹き、酒で火照った体をやさしくい鎮めてくれる。何もない地味な場所ではあるが、近くに心が休まる場所があるということは、考えてみれば貴重なのかもしれない。