富士山はその高さと姿の美しさから、世界に誇る日本の象徴である。いつ眺めても、その存在感には圧倒される。そしてずいぶん前から「いつかは富士山に登ろう」と考えていたが、なかなかその機会もなく、また普段体を鍛えているわけではないので、多少の不安もあり、結局この年齢になるまで登らずにきた。ある日、ネットで何気なく富士登山について色々調べてみると、毎年小さい子供の登山者も多く、半袖半ズボンでスイスイ登る外人観光客も結構いるとのことだ。つまり富士登山は自分が想像していたほど深刻なものでもなく、誰でもウェルカムで、気軽に楽しく登れるということなのであろう。そこで早速サンシャインツアーの「夜発3日間吉田ルート登山フリー登山プラン」(旅行代金は約2万円)に申し込んだのである。
ところが実際に登ってみると、ただ「苦しい」の一言だった。呼吸も苦しく、頭もグルグル・フラフラし、足はまさに棒そのものだ。特に強く冷たい非情な雨と風を全身に受けながら、大きくゴツゴツとした岩場を這いつくばりながら長時間登るのは、人生史上かつてないほどの苦行であった。もっとも途中で眺める風景は非常にすばらしく、やっと頂上に着いた時は、大いなる達成感は感じた。
あれから10か月、現在は登山の苦しかった感覚は、少しずつ消えてきてはいる。だが しかし、それでも「もう一回登ろう」とは思わない。つまり僕は「一度も登らぬバカ」でも、また「二度登るアホ」でもなかった。普段は 「信州狂人」と名乗っているが、 実は正常な意識を持つ善良な一市民だということが今回判明されたのである。