10日間の吉林市・長春市(3)2023.02.04

【五日目】旅行を始めてから連日長時間歩き回っていたので足の痛みがひどくなり、一晩寝ても解消されないほどだ。そこでこの日は極力のんびり活動することにした。そして頭に浮かんだのは松花江沿いの遊歩道。先日龍潭山へ向かうバスの中から見て、ゆっくり歩ける遊歩道が長く続き気分をリフレッシュするには最適な場所だと感じた。目的もなくただ川や山を眺めながら歩くのも時にはいいだろう。

時間に余裕はあったので往路はホテルから徒歩、復路は足を気遣ってバスに乗車した。ホテルから目的の川岸まで約45分、途中吉林駅の西口から東口まで構内を通り、東口を出て東方向へしばらく直進すると川岸に到達する。ところで駅西口近くに珍しいデザインの建物が目を引いている。ネットで調べるとこれは「偽満吉林鉄路局弁公楼建築」、つまり満州国時代の遺物である。哈爾浜にも西洋式古建築が多くそれらを見るたびに感じるが、この建物も現在の建物に比べて重厚感と存在感をともに強く感じる。またずっと見ていても飽きないのだ。


この日は天気もよく歩いていて気持ちがよかった。到着した地点からは先日登った龍潭山山頂の六角亭が小さく見える。歩を進めると遠くに見えていた「東団山」が次第に大きくなり、やがて川を挟んで対面する位置に来た。実は足の状態が良ければこの日は東団山に登るつもりであった。周囲にはいくつか遺跡があり、また頂上付近の展望台からの眺めも期待できそうだ。まぁ無理は禁物だ。残念だが次回の楽しみにとっておこう。


さて東団山を望むこのポイントで久々の「流水飲み」を行った。川の流れをのんびり眺めながら酒を飲む、心いやされるひと時である。前回の流水飲みの記憶はあいまいだ。たぶん去年7月初旬、京都市内を流れる鴨川だったと思う。ちなみに中国での前回は2019年10月、咸陽の渭水だ。実は今生活している哈爾浜ではまだ一度も流水飲みはしていない。到着は去年10月下旬だったが、入国後2週間は隔離生活、その後も不慣れな新生活と毎朝のPCR検査等で多少バタつき、そのうち松花江も凍結、極寒で流水飲みどころではなかったのだ。


気になる街へ行く  東団山の流水飲みを終え、バスに乗ってホテル近くのバス停まで戻った。その後、ホテルの部屋から見える「気になる場所」へ行くことにした。下の写真の赤い矢印で示した箇所、ここから車やバイクがよく出入りしているのが見え、その向こう側はどうなっているのか気になったのだ。さて実際に現地を確認すると、そこは「懐徳街」という通りでポンプやパイプ等の配管設備資材を扱う店が集中していた。特別何があるという訳でもないが、このようなゴチャゴチャ雑然とした雰囲気の場所になぜか興味がわき、パチパチ写真を何枚も撮影した。  


部屋に戻り、晩は地元の「華丹ビール」でのどを潤しリラックスしてから就寝する。明日は吉林市を離れ長春市へ移動する。吉林には暖かい時期にまた訪れたいと思っている。


【六日目】吉林駅➔長春駅  高速鉄道で約40分、初日に長春駅経由で通って来た路線を戻るかたちになる。窓から冬の寒々しい農場や集落、凍結した川などをしばし眺めていると、やがて高層住宅群が多く現われ農地は見えなくなった。長春市に到着したのだ。


長春の街並み  駅を出ると予約していた安いホテル「898商務賓館」に向かう。ホテルは駅から南へまっすぐ伸びる「人民大街」沿いの「勝利公園」近くにあり、そこまでは徒歩約20分。途中、道の左右には多くの古建築が残り、その多くは今でも活用されている。珍しいレトロなデザインは見ているだけでも楽しい。なかでも個人的に気に入っているのが「満鉄図書館旧跡」だ。古い中に斬新さが感じら、配色も絶妙で当時の建築家のセンスの良さがうかがわれる。

S狂人のお気に入り建築「満鉄図書館旧跡」


真不同で食事  ホテルでチェックインを済ませ、部屋で少し休んでから食事に出かけることにした。吉林では老舗料理店の印象がとても良かったので、長春でも長年信頼のある似たような店を探した。それが百年の老舗「真不同」である。末代皇帝、つまり宣統帝溥儀がこの店の味を褒めた言葉をそのまま屋号にしたというわけだ。滞在中ここで三回食事したが、味や値段、雰囲気にはとても満足している。


まず飲み物は「純糧老焼酎52°」、料理は名物「灌湯包」(小籠包に似たもの)、「麻香前牛腱子」(旨辛牛筋肉スライス)、「香酥小河蝦」(河エビの唐揚)の三品を注文した。面白いのは焼酎が店内に置かれている甕から磁器製の碗に注がれて出されたことで、中国では初めての体験だ。グラスとは違った雰囲気が楽しめた。味も良かったのでもう一碗追加して飲んだ。店員さんに聞くと、この酒は浙江省産で経営者が飲んで大変気に入り、以後現地から仕入れているとのこと。旅行者的には地元吉林省産の酒のほうが記念にはなるが、まぁ美味しければそれでもいいだろう。地酒はホテルの部屋で味わうことにしよう。

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食事を終え、ほろ酔い気分で長春の街をのんびり散策しながらホテルに戻る。着くころには日は落ち辺りは暗くなっていた。暗闇に光るホテルの電飾を見て少し安心する。部屋では近くの店で買った地酒「洮児河白酒」を飲みながら翌日の計画を立てる。そしてこの日は終了した。

10日間の吉林市・長春市(2)2023.02.04


【三日目】龍潭山公園を散策  市の北東部、松花江を渡った所にこの公園はある。山全体が公園となっていて広く樹木が茂り空気はきれいだ。古い寺や廟、城壁等の遺跡が散在していて自然と歴史が同時に楽しめる。遊歩道は勾配があるので普段あまり運動しない人は多少疲れるかもしれないが、山頂の六角亭からは市内が一望できて爽快、行く価値は充分あるだろう。ただ私が登った時は残念ながら霧で景色がはっきり見えなかった。

高句麗時代の遺跡 用途は不明だが軍事物資等の保管場所だと推測されている


河南街を散策  龍潭山公園から44路バスに乗り終点のバス停「北京路」で下車、河南路はその近くにある。古くからある通りでデパートや多くの店舗が軒を連ね、食事や買い物が楽しめる。哈爾賓を出発してからこれまでカップ麺やKFCのカリカリチキンを食べていたので、老舗の蒸餃子店「新興園」で食事した時はおいしくて素直に感動した。たまにはまともな料理屋で食べるのもいいものだ。


牛子厚と梅蘭芳  路上に二人の銅像がある。牛子厚は地元の豪商で、京劇役者養成所を創設し、梅蘭芳もそこで学んだ。その縁で梅蘭芳が吉林に来た時に芸を披露し、牛子厚から「梅蘭芳」という芸名を与えられたという。後で述べる「吉林史話博物館」には梅蘭芳の梅の墨画があったのでここで紹介する。


福源館で買い物  きらびやかな外観の店が気になり近づくと、そこは三百年の老舗「福源館」であった。店内に入いるとケーキやパン、お菓子類が売られ甘い香りが漂っている。値段もそれほど高くないのでホテルに帰ってから食べようと思い、揚げツイストパンと胡桃パン等を購入。実際に口に入れると何れもモチモチ・フカフカ、大変おいしくて大満足であった。


新興園で食事  福源館の隣には百年の老舗「新興園」がある。看板料理は蒸餃子。餃子と言えばスーパーで購入した冷凍餃子を朝食に食べることが多い。まぁ冷凍ものも便利でそれなりにおいしいが、やはり専門店で食べる餃子は格別だ。 なおこの店の看板の字は先に述べた牛子厚が揮毫したものである。とてもおいしく印象が良かったので翌日もここで食事した。


吉林史話博物館を見学  上述の新興園と同じ建物内に開設されている。食事後トイレを利用した際に偶然発見した。時代の対象範囲は清朝末期から1970年代頃まで。河南街を中心とした吉林市の歴史を豊富な写真や古物とともに紹介している。私が特に面白いと感じたのは60年代頃の一般的な家庭の室内を再現したコーナーだ。当時の家具や電化製品、テーブルの上の餃子まで実によく再現されている。その他、道光帝の詔勅や著名人の書画、文革時代の文物、個人的な卒業証書や結婚証明書まで展示分野は様々で見ていて飽きない。


【四日目】満族博物館を見学  建物は元々民国期に王百川という商人が建てた四合院の邸宅。今はその名の通り満族の歴史や文化を紹介している。私が興味を持ったのは清朝の官帽(役人の帽子)の頂に飾る珠である。材質や色、寸法も様々だ。どれをいつ、どのような状況で使用するのか、階級別に厳密に定められていたのか、或いは個人的な好みやその日の気分で選ぶことができたのか、興味はあるがまだ調べていない。その他、使い込まれた古馬車、細密に作られた貴婦人の髪飾り、武器等も興味深く拝見した。


人民広場を散策  満族博物館の北側に広がる大きな公園だ。その東には大きな池があり、訪れた時はスケート場として利用されていた。比較的上手に滑るな大人から補助具を使う初心者の子供まで様々な年代の人たちでにぎわっていた。スケート靴のレンタルショップ小屋では焼きソーセージ5元(約100日本円)が売られていた。買う人がいるのかと少し離れた所から見ていると、すぐに客が現われた。ところで画像にも映っている山が北山公園である。そこには寺や廟等の古建築が多く存在する。今回は残念ながら閉鎖中で見学できなかった。また吉林市に来る機会があれば是非訪れてみたい。


人民広場を離れた後は「観音古刹」という寺を参観し、その後先日行った河南街の新興園でまた食事した。今回は東北料理の「鍋包肉」と家庭料理「モヤシ野菜炒め」を注文。どちらも量が多く、頑張ってパクついたがすぐに力尽き、半分以上残ったのでテイクアウトした。部屋に戻ると新たに買った地元焼酎「百年鹿通」を飲みながら、その日は終了した。