【五日目】旅行を始めてから連日長時間歩き回っていたので足の痛みがひどくなり、一晩寝ても解消されないほどだ。そこでこの日は極力のんびり活動することにした。そして頭に浮かんだのは松花江沿いの遊歩道。先日龍潭山へ向かうバスの中から見て、ゆっくり歩ける遊歩道が長く続き気分をリフレッシュするには最適な場所だと感じた。目的もなくただ川や山を眺めながら歩くのも時にはいいだろう。
時間に余裕はあったので往路はホテルから徒歩、復路は足を気遣ってバスに乗車した。ホテルから目的の川岸まで約45分、途中吉林駅の西口から東口まで構内を通り、東口を出て東方向へしばらく直進すると川岸に到達する。ところで駅西口近くに珍しいデザインの建物が目を引いている。ネットで調べるとこれは「偽満吉林鉄路局弁公楼建築」、つまり満州国時代の遺物である。哈爾浜にも西洋式古建築が多くそれらを見るたびに感じるが、この建物も現在の建物に比べて重厚感と存在感をともに強く感じる。またずっと見ていても飽きないのだ。
この日は天気もよく歩いていて気持ちがよかった。到着した地点からは先日登った龍潭山山頂の六角亭が小さく見える。歩を進めると遠くに見えていた「東団山」が次第に大きくなり、やがて川を挟んで対面する位置に来た。実は足の状態が良ければこの日は東団山に登るつもりであった。周囲にはいくつか遺跡があり、また頂上付近の展望台からの眺めも期待できそうだ。まぁ無理は禁物だ。残念だが次回の楽しみにとっておこう。
さて東団山を望むこのポイントで久々の「流水飲み」を行った。川の流れをのんびり眺めながら酒を飲む、心いやされるひと時である。前回の流水飲みの記憶はあいまいだ。たぶん去年7月初旬、京都市内を流れる鴨川だったと思う。ちなみに中国での前回は2019年10月、咸陽の渭水だ。実は今生活している哈爾浜ではまだ一度も流水飲みはしていない。到着は去年10月下旬だったが、入国後2週間は隔離生活、その後も不慣れな新生活と毎朝のPCR検査等で多少バタつき、そのうち松花江も凍結、極寒で流水飲みどころではなかったのだ。
気になる街へ行く 東団山の流水飲みを終え、バスに乗ってホテル近くのバス停まで戻った。その後、ホテルの部屋から見える「気になる場所」へ行くことにした。下の写真の赤い矢印で示した箇所、ここから車やバイクがよく出入りしているのが見え、その向こう側はどうなっているのか気になったのだ。さて実際に現地を確認すると、そこは「懐徳街」という通りでポンプやパイプ等の配管設備資材を扱う店が集中していた。特別何があるという訳でもないが、このようなゴチャゴチャ雑然とした雰囲気の場所になぜか興味がわき、パチパチ写真を何枚も撮影した。
部屋に戻り、晩は地元の「華丹ビール」でのどを潤しリラックスしてから就寝する。明日は吉林市を離れ長春市へ移動する。吉林には暖かい時期にまた訪れたいと思っている。
【六日目】吉林駅➔長春駅 高速鉄道で約40分、初日に長春駅経由で通って来た路線を戻るかたちになる。窓から冬の寒々しい農場や集落、凍結した川などをしばし眺めていると、やがて高層住宅群が多く現われ農地は見えなくなった。長春市に到着したのだ。
長春の街並み 駅を出ると予約していた安いホテル「898商務賓館」に向かう。ホテルは駅から南へまっすぐ伸びる「人民大街」沿いの「勝利公園」近くにあり、そこまでは徒歩約20分。途中、道の左右には多くの古建築が残り、その多くは今でも活用されている。珍しいレトロなデザインは見ているだけでも楽しい。なかでも個人的に気に入っているのが「満鉄図書館旧跡」だ。古い中に斬新さが感じら、配色も絶妙で当時の建築家のセンスの良さがうかがわれる。
真不同で食事 ホテルでチェックインを済ませ、部屋で少し休んでから食事に出かけることにした。吉林では老舗料理店の印象がとても良かったので、長春でも長年信頼のある似たような店を探した。それが百年の老舗「真不同」である。末代皇帝、つまり宣統帝溥儀がこの店の味を褒めた言葉をそのまま屋号にしたというわけだ。滞在中ここで三回食事したが、味や値段、雰囲気にはとても満足している。
まず飲み物は「純糧老焼酎52°」、料理は名物「灌湯包」(小籠包に似たもの)、「麻香前牛腱子」(旨辛牛筋肉スライス)、「香酥小河蝦」(河エビの唐揚)の三品を注文した。面白いのは焼酎が店内に置かれている甕から磁器製の碗に注がれて出されたことで、中国では初めての体験だ。グラスとは違った雰囲気が楽しめた。味も良かったのでもう一碗追加して飲んだ。店員さんに聞くと、この酒は浙江省産で経営者が飲んで大変気に入り、以後現地から仕入れているとのこと。旅行者的には地元吉林省産の酒のほうが記念にはなるが、まぁ美味しければそれでもいいだろう。地酒はホテルの部屋で味わうことにしよう。
食事を終え、ほろ酔い気分で長春の街をのんびり散策しながらホテルに戻る。着くころには日は落ち辺りは暗くなっていた。暗闇に光るホテルの電飾を見て少し安心する。部屋では近くの店で買った地酒「洮児河白酒」を飲みながら翌日の計画を立てる。そしてこの日は終了した。