三泊四日の瀋陽(3)


【二日目】張氏帥府博物館  故宮から南へ徒歩約15分のところに張作霖・張学良の官邸と私邸がある。非公開エリアを含めると敷地はかなり広い。特に印象的だったのは華麗な外観の邸宅「大青楼」。華やかな装飾に加え、外壁が淡い色調のため周囲から際立って見える。

大青楼
張学良の執務室


老虎庁  一階東側奥にある客間で、ここでは1929年1月10日に張学良の命令で楊宇霆と常蔭槐の二名が射殺される「楊常事件」が起きた。原因は政策の不一致で、二人は東北易幟(28年12月の蒋介石の国民政府との提携)を妨害し、更に今回は二人に都合の良い「東北鉄路公署の設立」の署名を張学良に迫り、彼の我慢も限界に達したのだ。二人が一度食事に帰宅し再度戻って来たところを取り押さえ、罪状と処刑する旨を述べて即座に銃殺。想像すると恐ろしい話だが、現在室内はきれいに整えられていて事件が起きた場所とは全く感じられない。

老虎庁


小青楼  張作霖夫人の邸宅。ネットで調べると、1928年6月4日5時30分の列車爆発で重傷を負った張作霖が運び込まれたのが一階西側の部屋で、同日9時30分に彼は死亡したという。

小青楼


瀋陽金融博物館  元々銀行であった大きな建物内では金融に関する様々な展示コーナーが見学できる。今回は特に印象に残った「中国歴代の金貨」と「偽造紙幣」を取り上げる。

中国歴代の金貨  金貨はたとえ戦国時代のように大昔の物であっても新品のようにピカピカ輝いている。まるでタイムスリップして現在に届けられたかのようだ。それこそがゴールドの価値なのであり、大昔から人々を魅了し続けている大きな理由であろう。歴代金貨はとても珍しいのでガラスケースにへばりついてまじまじと眺めていた。


偽造紙幣の展示  このコーナーでは人民元の偽札が多数展示されている。一部は本物も横に置かれているので違いを見比べるのも面白い。中には子どもがイタズラで描いたような拙い手書きの偽札も展示されているが、どこから見ても明らかにニセモノで笑ってしまった。ところで現在私は店での支払いはスマホによるQR決済だが、時々紙幣を渡すと従来通り専用の識別機に通されたり、透かしや触感をチェックされたりする。やはり中国は偽札大国なのか。もっともQR決済がかなり普及し、またデジタル人民元も試験運用されたという話もあり、偽札の流通量も減少傾向にあることが想像できる。

確かに良く似せて作られ、一目では見分けられない物が多い。過度の金銭欲から生じたニセ金造りへの異常な執念を感じる・・・

10日間の吉林・長春・農安(5)最終回

旧関東軍司令部  ライトアップされた天守閣風の建物が闇のなかに強く浮き立っている


【九日目】南湖公園  月曜日で多くの博物館は休み、他に行きたいところもないので、この日は先ず公園をのんびり散歩することにした。地図で見ると市内の南湖公園には比較的大きな湖があるのでそこに決めた。地下鉄で公園最寄り駅まで移動、地上に出てしばらく歩くと大きな橋がある。そこから公園全体を眺めると人々が湖上を移動しているのが見えた。この季節、吉林市の公園もそうであったが湖水は全面的にカリッと凍結しているので、道を急ぐ人は迂回せずに湖上を直進できるので便利だ。
自分も湖面に降りてみた。最初は少し不安もあったがやがてそれも消え、湖の中心部に向かい進んでいった。スマホの地図を見ると現在地を示す点は青い湖の上にある。当然のことではあるが少し面白く感じた。園内の数か所に氷雪滑り台などの遊び場もあって、子供たちが楽しそうに遊んでいた。さて、冬の公園は充分に楽しんだ。お腹も空いたので遅めの昼食をとるため公園を出て市バスに乗り「真不同」へ向かう。


真不同で食事  ここに来るのは三回目だ。味も良く旨い酒もあり、店内は比較的清潔、落ち着いて食事できるいい店だ。まず酒は前回と同じ「純糧老焼酎52°」、磁器の碗で飲むと雰囲気も酒の味も変わるようでいい感じがする。ただこの日は旅疲れの影響かグビグビ飲めず一杯だけで終わった。料理は野菜不足が心配なので「清炒芥菜」(芥子菜をあっさり炒めたもの)と、他に「麻香素鶏豆腐」(湯葉を鶏肉に似せて加工したものに旨辛ソースをからめたもの)と当店名物「灌湯包」(小籠包に似たもの)の計三品を注文。すべておいしく大満足だ。翌日は哈爾浜に戻り旅も終わる。機会があればまたこの店に来たいと思っている。ごちそうさまでした・・・😊


雨ざらしのネット配線箱にビックリ!  真不同から旧日本人住宅があるエリアに行く途中、ある光景をみてびっくりした。それはそのエリアで使われているインターネット用の配線箱だと思うが、なぜか扉が無く、中にある多数の回線が丸見えになっているのだ。雪や雨、夏の強い日差しに晒されても悪い影響はないのだろうか。他人事ながら心配になった・・・。


古い住宅街を歩く  旅行ガイド『地球の歩き方・大連 瀋陽 ハルビン2019-2020年版』の長春地図には「旧満州時代の日本人住宅が残っている」というエリアが二か所示されている。その一つは東三条街と呉淞路の交差点南東部。そこはホテルからは徒歩10分ほど、真不同からも遠くないので食後に徒歩で向かった。到着してそのエリアを見たが特に古い住宅は確認できなかった。そこで呉淞路を渡り東三条街を北上するとすぐに古い住宅が比較的多く存在しているエリアを確認できた。それらの建物が当時の日本人住宅であるかは不明だ。しかしまぁ隣接地域として多少何らかの関係はあったと想像できる。そこには今でも人が住んでいる建物と明らかに廃墟と分かるものが混在している。多くはかなり老朽化が進んでいる。また近々解体する予定なのか高い柵で囲まれている物件や、既に更地になっている土地も多くあった。不審者のようにキョロキョロしながら歩いていると、見たことのない珍しい形の電柱があったりして面白く感じた。このような倒壊しそうな古建物は市内各地に多く見られる。重要な物件は地元政府によって修築保存されるのだろうが、その他多数はやがて解体され跡地には新たにアパートやマンションが建てられるのであろう。今回見た古い住宅も次に来た時にはもう無くなっている可能性が高い。寂しい気もするが、それが時代の流れというものか・・・


【十日目】最終日  哈爾浜行きの列車は長春駅14:46発、ホテルチェックアウト後もまだ時間があったのでホテルの前にある「勝利公園」を散歩した。先日の南湖公園に続きこの日も公園をぶらつくことになる。この公園にも湖があり、やはりカリッと凍結している。スケートで遊ぶ人たちもいて、その辺りの湖面の氷にはエッジによって削られた傷が多数残っている。それが自然の亀裂と相まって抽象画のような独特の絵画が氷上に描きだされ、さらに日の光でキラキラ輝き何とも妙である。人と自然の共同芸術作品といったところか。うつくしく魅力的に感じ、しばらく眺めていた。


公園を出て駅に向かう。長春到着時にも同じ通りで撮影したが、今回は反対側の歩道から写した。


長春駅に近づいたエリアに古い住宅地の廃墟があった。その周囲には新しいアパートが多く建てられているところを見ると、古い住宅地の住民はアパートに移転したのであろう。廃墟の建物は老朽化し、周囲は雑草や廃棄物でひどい状態だ。ただ当時の平屋住宅には現在のアパートにはない暖かみや味のある雰囲気が存在していたのではないかと想像する。そこで多くの人々が暮らし、家々からは暖房や炊事の煙が上がり、辺りには料理の匂いが漂い、子供たちの遊び声も響いていたことであろう。やはり住宅の廃墟を見てかつて生活していた様子を色々想像すると非常に寂しさを感じる。


長春駅を出発、列車に乗り込む。高速鉄道の車両は快適である。二等席で多少狭く感じるが、まぁ約1.5時間の移動なら問題ない。外の白い農村の景色を眺めながら今回の旅での出来事を思い出している。そのうちに哈爾浜駅に到着、地下鉄で自宅最寄り駅に移動、地上に出て見慣れた街の風景に心がホッとする。何とか無事に帰ってきたのだ。

哈爾浜駅
自宅近くの街の風景

今回はだいぶ疲れたが、とても充実した旅であった。吉林市のホテルの部屋から見たきれいな夕日を思い出す。また行く日まで、さようなら・・・